※「にじいろデート」続編。ナルト視点。
洗面所兼脱衣所となっているスペースにサスケの後ろ姿が消えた後、暫くして浴室へと続く扉が閉まる音と、シャワーの音が聞こえて来る。
……ホントに行っちまうなんて、薄情なヤツ……。
僅かに抱いていた期待が裏切られた落胆に、ほんの少し前までサスケの服を掴んでいた掌を眺め、ナルトは深く溜め息を吐いた。
もう少しくらい優しくしてくれても良いのにと思う甘えた気持ちとは別に、これくらいの報いは致し方無いという冷静な判断もどこか頭の隅にある。いくら良かれと思ってした事とは言え、今日一日、しかも早朝からサスケを引っ張り回した事は事実なのだ。体力に自信のあるナルトですら疲労を感じているのだから、おそらくサスケは尚更疲れているのだろう。風呂くらい一人でゆっくり入りたいという彼の言い分は尊重すべきだ。
再び深い溜め息を吐きだすと、ナルトは緩慢な動きでベッドから降り、窓を開けて外を眺めてみる。昼間はそうでは無いものの、五月の夜の気温はまだ低く、感じる寒さに僅かに身体を震わせた。怖さを紛らわせる為の行動だったが、外が暗い為部屋の中の様子が窓に映り込むのが目に入ると、逆に意識してしまう。そんな事は有り得ないと解っていながらも、妙なものを見てしまう前にすぐにカーテンを閉めた。
一人暮らしで何となく寂しい時に良くそうしているように、今度はテレビをつけて隣室に迷惑にならない程度に音量を上げてみる。チャンネルを弄ってバラエティ番組に落ち着けると、ルームサービスのメニューを眺めてみたり、机の引き出しを開けてみたりとうろうろと歩き回った。
しかし、気を紛らわせようとすればする程、先刻サスケに無理矢理に聞かされた話を思い出してしまう。どうしても気分が落ち着かずそわそわと辺りを見回すも、詳細に聞かされた内容を脳が勝手に映像化してしまい、ナルトの頭の中でひとりでにホラー映画が出来上がっていった。気分を切り替えようと努力しても、あまりに印象が強すぎてどうにも頭から離れてくれない。それどころか、一人で居るとますますナルトの頭の中で想像が膨れ上がってしまうのだ。
も、もう無理だってばよ…!こうなったら怒られる覚悟で一緒に風呂入るしかねえ!!
部屋の中をぐるぐると歩き回ったナルトがそう結論を出したのは、シャワーの音がし始めてから五分程経過した時だった。腹を括ってからのナルトの行動は早く、そう決めるや否や自分の服に手をかける。一人で部屋で待っているのもこんな状態では、一人で風呂などとんでもない。早く浴室へ向かわなければサスケが入浴を終えてしまうかもしれないと思えば、脱いだ服を悠長に畳んでいる暇など無かった。
脱衣スペースで服を脱げば、影や気配でサスケに気づかれてしまうかもしれない。サスケに気取られないよう脱衣スペースに行く前に服を脱いでしまおうと、手早く脱ぎ捨てた衣類をベッドの上に放る。そうしていると、下着に手をかけたところで、今夜の為にバッグの中に忍ばせてきたものの存在を思い出して手が止まった。
サスケと会うのは約一週間ぶりで、それ程長く会っていなかったという訳では無い。四月最後の週末にサスケのアパートへ押しかけた時、勉強している彼を何とかその気にさせて身体を重ねてもいたから、今夜絶対に事に及びたいかというとどうしてもという程でも無かった。
本音を言えば、勿論今夜サスケを抱きたいに決まっている。けれど、どの程度かまでは解らないにせよ彼が今日一日のデートで疲れているのは本当だろうし、無理をさせて明日の予定に響くようならば自重しなければならないという程度の良識は、持ち合わせているつもりだった。しかし、その一方で、無理させなければ一度くらいという下心を抱いてもいる事は否定出来ない。
考えたところで埒が明かないと早々に思考を放棄したナルトは、バッグの中を探り小さな包みを手にすると足早に浴室へと向かった。
まずは脱衣スペースに足音を忍ばせて入り、そっと浴室へ続く扉を開ける。僅かに開いた扉の隙間から窺えば、サスケは浴室の入り口に背を向ける体勢で頭からシャワーの湯を浴びていた。高級なホテルという訳では無いのに浴室はナルトの想像よりは少し広めで、これならば窮屈な思いをせずに済むという考えが浮かび、思わず口元が緩む。しかし、すぐに悠長に構えている場合では無いと頭の中の想像を打ち切り、中へ足を踏み入れた。
「やだってばよサスケ、やっぱり一人で待ってんの耐えきれねえ!一緒に入る!!」
持参した小さな包みは取り敢えずさり気無く浴槽の縁に置き、勢い良く抱きついて大声で捲し立てれば、サスケはひどく驚いて振り返る。何か考え事でもしていたのか、ナルトの存在には全く気付いていなかった様子だった。元々機嫌を悪くしていたサスケがすんなりとナルトの浸入を許す訳も無く、暫くは押し問答が続いたものの、一人で部屋に置いていかれる事が耐えきれなかったのだと必死に訴えると、渋々ながらも受け入れてくれる彼はやはり優しい。説得する為に縋りついた胸元に額を押し当てれば、髪を?き混ぜるように荒っぽく撫でられた。その心地良さに気持ちが和んで、思わず風呂へ押し入った目的を忘れてしまいそうになる。
「……オイ」
「ん?」
「確認するが、一人でいるのが怖かったから入ってきたんだよな?」
「そうだけど」
「それ以外の意図は無いな?」
「…………」
不意に声を掛けられて顔を上げる。なんだかんだ言ってもナルトに弱いところのあるサスケの寛容さに安心しきっていたところで、冷静な声音で淡々と釘をさされてしまっては、返す言葉も無かった。真っ直ぐに注がれる眼差しと視線を合わせていられなくなって、目を逸らす。
相手の体調を気遣う思い遣りは持ち合わせているつもりでも、恋人と旅行に来れば普通の男は下心を抱くというものだ。しかし、ただ自分の欲を相手にぶつけられればそれで満足するという話では無い。どうすれば良い雰囲気にもっていけるかと頭を悩ませていたナルトは、不意打ちのキスと次の瞬間耳に届いた言葉に驚き僅かに瞠目した。
「……え、……今、なんて」
「聞こえなかったのか?一回なら付き合ってやるって言ったんだ」
唇が触れ合ったのは一瞬の事で、下腹部に甘い疼きを引き起こす艶っぽい声はおそらく故意につくられたものだ。思ってもみなかった誘いに、なけなしの抑制心は簡単に瓦解してしまう。サスケ、と恋人の名を呼ぶ声は、我ながら随分切羽詰まっているように感じられた。触れた肩を掴む指先に力を込めて唇を重ねれば、サスケの腕が首に回される。催促もしていないうちから誘うように唇を開かれて、途端に心臓が早鐘を打ち始めた。
薄く開いた唇に舌を捩じ込んで、恋人の口内を味わう。右手は後頭部へ回し、顔を逸らす事が出来無いよう頭を固定しても、サスケは嫌がる素振りひとつ見せなかった。それに気を良くしたナルトは、深く唇を合わせて好き放題に熱い粘膜に舌を這わせる。整った歯列を舌先でくすぐるように舐めて上顎の裏側を擦れば、ナルトの首に回されていたサスケの両腕に僅かに力がこもるのが解った。
「……ふ……っ、……ん……」
今日一日、不機嫌そうなポーズを装いながらも照れたり笑ったりと楽しそうな表情を見せてくれるサスケに、ずっと胸が騒いで落ち着かなかったのだ。一緒に居られるだけで楽しくて嬉しくて、彼が隣に居てくれる以上の幸せなど無いと思えるくらいに、サスケが愛しかった。
幼い頃から時間を共有してきた相手にいっそ盲目的と言えるくらいに惚れこんでしまった理由など今更解りはしない。しかし、恋人として共に過ごす間も、そして離れて生活するようになってからも、サスケはナルトの心を惹きつけて離さないのだ。偶にしか会えなくなってからは、会う度に愛しさが増していく気すらしている。
目を伏せてナルトの口づけに応えていたサスケが息苦しそうに眉を寄せる。それでも解放せず彼の背を浴室の壁に押しつけんばかりに身体を寄せて執拗に唇を塞ぎ続けていると、んぅ、と鼻にかかった甘い声を漏らしたサスケが身体を擦り寄せて来た。濡れた肌が擦れる感触が堪らなくて、一気に身体が熱くなる。今すぐに愛しい身体を貫いてしまいたい、そんな衝動に駆られる自身の暴走しそうになる欲望をなんとか抑え込み、サスケの背に回していた左手を下方へずらした。官能を煽るように殊更に緩慢な動きで、腰のラインに掌を滑らせる。肉の薄い足の付け根辺りを幾度も撫でると、サスケは小さくくぐもった声を漏らして僅かに身体を跳ねさせた。
初めて身体を重ねたのは十九の秋、高校を卒業して互いの日常生活に関わりがなくなってから半年以上過ぎてからの事だった。それから約一年半、それ程頻繁にという訳では無いにしろ、サスケとの行為はもう回数を意識する段階からは脱している。それなのに、いつ触れても、何度抱いても、敏感な身体が可愛くて堪らなかった。サスケの初心な反応を見る度に、甘やかすように大切に抱きたいという慈しむ思いと、彼が立ち上がれない程に抱き潰してしまいたい欲望の両方が、胸の内を抉るように膨れ上がる。
「……ナル、ト……」
舌先に纏わりつく唾液がどちらのものか解らなくなるまで重ねた唇をほんの少し離せば、サスケがシャワーの音に掻き消されてしまいそうな細い声でナルトの名を呼んだ。その瞳は熱に浮かされたように普段の鋭さを失い、欲に塗れて物欲しげな色を滲ませている。
サスケの声を聞くにはシャワーは邪魔だ。今の時期身体にかかる湯が無ければ少々肌寒いかもしれないとの考えも頭をよぎったが、すぐに思考も溶かされる程心身共に熱くなるだろうと踏んだナルトは、手を伸ばしてシャワーコックを捻り湯を止めた。
「……なに?」
サスケの意図を汲んだつもりで、濡れた柔らかな唇に今度は軽めに自らのそれを押し当てながら、後頭部へあてがっていた右手を動かす。恋人の頬から首筋へ滑らせ、鎖骨を親指でなぞるとサスケはぴくりと肩を跳ねさせた。
「……なに、じゃねえよ……。……もったいぶるな……」
ナルトの愛撫によって身体が反応する事を未だに恥ずかしく思っているらしいサスケは、こういう時いつもに増して尊大な態度を取る。本人は余裕があるかのように振る舞おうとしているつもりなのかもしれないが、照れ隠しがワンパターンなサスケの心中は、察しが良いとは言えないナルトでも既にお見通しだ。
「一回しかしねえなら、サスケのこといっぱい気持ちよくさせてやりてえからさ。ちょっとくらいいいだろ」
そのまま右手を胸元へ移動させて撫で回し、指先に引っ掛かった小さな突起を親指の腹で優しく数度擦ってから、押し潰すようにして捏ね回す。ナルトの言葉に何事か反論しようとサスケが一度は口を開いたものの、形の良いその唇からは言葉よりも先に控えめな喘ぎが漏れた。
一番最初に触れた時はそれほど反応が良かった訳ではなかったが、今では胸を弄るだけでだいぶサスケを高める事が出来るようになっていた。女じゃないんだからそんな所は触るなというサスケを、その度に宥めすかして執拗に愛撫を重ねて来た甲斐がある。首筋や鎖骨の辺りに舌を這わせ、親指と人差し指で摘んだそこを転がしていると、熱をもったサスケの下肢がナルトの下腹部に触れて彼の興奮を伝えて来た。
「んっ…、……ァ、……は……っ」
自らの掌で口元を押さえたサスケがくぐもった声を漏らす。わざと身体を密着させて芯を持ち始めたばかりの恋人のものに少しばかり圧力を加えれば、サスケはもどかしそうに腰を揺らめかせた。得意の憎まれ口を叩く余裕はもう無いのか、察しろと言いたげに強請るような眼差しを向けて来る。
その視線が孕む熱と瞳の奥に燻ぶる欲望にあてられて、ぞくりと背筋が震えるのと同時に下腹部に熱が集まる感覚に陥り、無意識のうちにナルトは喉を鳴らした。どうして欲しい、そう耳元で囁こうとして思い留まる。意地悪をして散々啼かせたいのはやまやまだが、今日一日の所業を考えれば、焦らさず彼が望むままに快感を与えてやるのが誠意というものだろう。
「……サスケ、可愛い」
「……っん!……」
悪趣味な質問の代わりに吐息交じりに睦言を囁き、愛撫によって赤みが増しぷくりと膨らんだ胸の突起を唇で挟み込む。相手が息を呑んだのが解っても構わずにきつく吸い付けば、胸元に顔を埋める格好になっているナルトの頭を抱くようにサスケが腕を回して来た。
下肢同様固さを増して存在を主張しているそれを唾液を乗せた舌で舐め、舌先で転がす。痛みを与えないように注意しつつ、時折歯をたてながらわざと音を立てて吸えば、サスケは短い嬌声を上げてナルトの頭を抱く腕に力を込めた。
自分の愛撫によって、サスケを高める事が出来る。それが嬉しくて、唇で挟み込んだそれを執拗に吸い上げた。その度に、サスケがん、ん、と甘い声を漏らしてしがみついてくる。それが可愛らしくて愛しくて堪らなかった。もっと彼に快感を与えたくて、もう片方の胸の突起に手を伸ばすと力任せに刺激を加える。サスケが漏らす声が次第に大きくなり、それを聞いているうちにナルトの下腹部にも急速に熱が集まり始めた。
「……っは……」
掌に力のこもったサスケにところどころ髪を引っ張られても夢中になって吸いついていた胸元から漸く顔を離して息を吐く。ふと視線を下ろせば、腹につかんばかりに勃ち上がったサスケの下肢は僅かに震えて先端を濡らしていた。
恋人が快感を覚えているのを、目に見えるかたちで知る事が出来るのは喜ばしい。顔を上げ、触れるだけのキスをした後で恋人に気持ちいいかと訊ねると、少しでも声を抑えようとしたのか唇を噛んでいたサスケがちいさく頷いた。その表情には最早普段の冷静さも余裕も感じられず、恋人の強がりを全て剥がして取り去ってしまえたような満足感に何とも言えない気持ちがナルトの中に湧き上がる。
ナルトがもつ多いとは言い難い語彙の中からひとつ言葉を拾い上げてそれを表現するのなら、嬉しくて堪らなかった。可愛くて、大切で、既に気持ちが通じ合っているのにまだ足りなくて、腕の中に閉じ込めていつまででも可愛がってやりたいと思うくらいには、サスケが愛しくてその気持ちに限りが無い。
「……ナルト」
艶をたっぷり含んだ声音で呼ばれれば、胸が甘く締め付けられてすぐには返事が出来無かった。代わりに、視線だけを合わせて返事を待つ。口を開きかけては閉じ、視線を散々さまよわせるサスケを急かす事無く見つめ、鼻先を擦り合わせて頬を撫でていると、暫しの沈黙の後に上擦った微かな声が浴室の空気を震わせた。
「……はや、く……」
その声だけで、眼差しが纏う艶っぽさだけで、ナルトの身体は容易に熱くなってしまう。下腹部に集まった熱がどくどくと脈打ち、早く繋がりたいという欲望が高まる自身の欲の事は今は一先ず抑え込み、無言のまま頷くとサスケの下肢に手を伸ばした。いつの間にか透明な液体が先端から次々に垂れ落ちている熱をそっと握り込み、数回上下に手を動かす。すると、それはナルトの手の中でひくついて更に硬度が増した。
「……すげえ、ガチガチ」
思わず漏れた言葉は、サスケを揶揄する意図があったというよりは単なる感想に過ぎない。下肢への愛撫を行う間も、サスケを安心させるように短いキスを繰り返した。どうやら脚に力が入らなくなったらしいサスケが縋りついて来て、彼の背に左腕を回す事で支えてやる。漆黒の双眸が今にも泣き出しそうに潤んでいるのが目に入り、それだけで理性など吹き飛んでしまいそうだった。
「……ナ、ナルトっ…、……そっちは、もう、いい、から…っ」
涙声で訴えられれば応えるしかない。涙の滲んだ目尻にそっと唇を押し当てると、サスケが零した先走りでしとどに濡れた右手を後ろへ忍ばせた。奥まった場所にある閉じた入口に濡れた指先を触れさせ、躊躇わずに解し始める。心構えがあってもやはり力が入るのか、短く声を上げたサスケはナルトの首に回した腕に力を込めて身体を強張らせた。
「大丈夫、ゆっくりすっから……。ちゃんと支えてるから安心しろってばよ」
左手で背中を優しくさすってやりながら囁いても、サスケはこくこくと頷きはするものの身体に力は入ったままだ。そんな余裕の無さすら愛しく思うものの、立ったままの体勢でサスケがこんな調子では易々と次の段階には進めない。それどころか、前立腺を刺激しようものならすぐさま崩れ落ちてしまいそうだ。
暫し思案したナルトはさり気無く恋人を抱き寄せると、浴槽の縁に腰を下ろした自分の膝の上にサスケを座らせる。熱に浮かされたようにぼんやりしていたサスケは特に抵抗もせず促された通りに誘導に従い、大人しくナルトの膝に跨ると向き合う体勢で腰を下ろした。
「これならきつくないだろ?」
膝の上に乗せたサスケを僅かに見上げる体勢で呟く。サスケは答える代わりにナルトの肩に顎を乗せ、しなだれかかるように体重を預けてきた。既に呼吸は乱れていて、ナルトの耳元で浅い呼吸が繰り返される。
立ったままというのも一度は試してみたいと思っていたが、別に焦る事は無い。それよりもサスケが明日思い出して幸福だったと思えるような時間を共有する方が遥かに重要だ。
回した左手でぽんぽん、と軽く背を叩いてから、改めて右手で後ろを探る。サスケが零した粘液を纏った指先をまずは一本ゆっくりと埋め込めば、それだけで恋人はぶるりと身体を震わせてしがみついてきた。
「…ァ…、……やっ…、……ぅ……」
中指を根元まで挿入して緩やかに動かし、さほど時間をおかずに指の数を増やす。少しずつ入口を広げるようにほぐしながら中で指を曲げると、ナルトの肩に歯を立てて声を抑えていたサスケが短い悲鳴を上げた。
ナルトの下肢も、既に限界まで張り詰めている。逸る気持ちを抑えて内部へ差し込む指を三本にし、浴室に濡れた音が響くのも構わず激しく抜き差しを繰り返す。中で曲げた指先が時折いいところを掠めるのか、ナルトの右肩に噛みついたままのサスケがくぐもった声を漏らして腰を跳ねさせた。
「……ナルトっ……、いい、もう、……」
右肩に歯型を残すだけでは足りないのか、左肩を爪が食い込む程きつく掴んだサスケが切羽詰まった声で途切れ途切れに呟く。
「……え、でもまだ……」
「お、俺が!いいって、言ってんだろ……!」
繋がる為の場所はだいぶ柔らかくはなっていたものの、まだもう少しだけ不十分に感じられて躊躇う素振りを見せると、サスケが泣きだしそうな声音で怒鳴りつけて来た。全く、身体を重ねている最中でも強気な姿勢は崩さない、こういうところが実にサスケらしくて、それでいて堪らない。
これ以上焦らすと機嫌を損ねてしまいそうだった為、解ったと相槌を打ち、要求に応えるつもりで指を引き抜いた。サスケの悩ましげな吐息を聞きながら左手で浴槽の縁を探り、置いておいた筈の避妊具を探す。すぐに指先に触れたそれを引き寄せて手に取り封を開けていると、サスケが横目で様子を窺って来た。
「……サスケがつけてくれる?」
視線からも感じられる焦りに胸がざわついて、悪戯っぽく囁きかける。サスケの瞳が僅かに見開かれ、戸惑いの色を浮かべた彼の視線がさまよった。
男同士で妊娠の可能性など無いのだから、本来避妊具など必要無い。しかし、だからこそ中に出したものは出してやらなければ恋人を苦しめる事になる。そういう意味で、避妊具は便利だった。中で吐精しないようにする為には達する直前に繋がりを解かなければならない。しかしナルトは、最後までサスケの熱を感じていたいのだ。その点、避妊具を着ければ相手に負担を掛けずに繋がったままでいる事が出来る。
「……なぁ、……ダメ?」
脈アリと踏んで、耳殻に舌を這わせつつ低音で囁けば、サスケは無言で小さな包みから中身を取り出した。十分過ぎる程に猛ったナルトの下肢にそれをあてがうと、微かに震える右手で被せ始める。
は、は、と短く浅い呼吸を繰り返すサスケのそれは、かわいそうなくらい張り詰めて自身が分泌した液体で濡れている。ナルトが触れて数度上下に擦ってやれば、すぐに熱を吐きだしてしまいそうに見えた。
「……ん、ありがと」
たどたどしい手つきでナルトのものに避妊具を被せたサスケが物言いたげな視線を送って来る。本人はおそらく鋭い眼差しを向けているつもりなのだろうが、すっかり快感に蕩け切った瞳は普段の涼やかさや、ましてや厳しさなど微塵も感じられなかった。
「痛ってェ!」
サスケの身体を持ち上げようと腕に力をこめた瞬間、右肩を噛まれて思わず声を上げる。手加減など感じられない強さと勢いで、血が滲んだのではないかと思う程だった。一度恋人の身体から手を離して右肩の様子を確認しようとするも、掌で頬を押し返される。礼なんかどうでも良いから早くしろ、そんな言葉が聞こえてきそうなくらいの仕草に思わず笑ってしまう。
これ以上もったいぶると危害が及びかねない、というよりも、明日も予定があるのにサスケに不機嫌になられる事の方が怖い。宥めるようにへらりと笑ってサスケの頬に唇を触れさせたナルトは、力抜いてろよ、と告げ改めて彼の身体を抱えると腰を浮かせた。
「……ん……」
張り出した先端と、解した入口が触れる感触に肌が粟立つ。肩を噛まれた仕返しに焦らしてやろうかと一瞬頭をよぎったものの、ナルトの方にも余裕が無い今、それは土台無理な話だ。
粘膜同士が触れ合った瞬間、反射的にサスケが身体を震わせたのを見計らって腰を落とさせ、一番挿入に負担がかかるであろう先端部分をのみ込ませる。短く甘く上がる声がナルトの鼓膜を震わせ、更に興奮を掻き立てた。
「痛くねえ?大丈夫か?」
中途半端な状態で動きを止めればお互いに辛い。一週間振りに身体を開かせる割には準備が不十分だったかもしれないと今更心配になり、ゆっくりと繋がりを深めつつ問い掛ければ、サスケは唇を噛みしめて首を横に振った。サスケに質問を向けたナルトの声も余裕の無さと高まる興奮から上擦っていたが、サスケの方は言葉を返す事も出来ないらしい。彼が何も言わずとも見ていてきつそうならば止めなければという気遣いは頭の隅に存在はしたものの、結局のところ挿入を止める事などかなわなかった。
「……っは、……」
自身を根元まで受け入れさせて息を吐く。サスケの身体を持ちあげていた腕から力を抜いて彼の背中へ回し、そっと抱き締めてあやすように撫でてやる。薄いゴム越しでも十分過ぎる程に伝わる中の熱に翻弄され、すぐに思うまま奥を貫きたい衝動を必死に抑えて呼吸を整えた。
最初のうちこそ相手を気遣う余裕など無かったものの、回数を重ねればそれなりに抑えもきくようになる。恋人を抱くのは彼が欲しいからに他ならないが、求めてくれるサスケが満たされない行為など無意味だ。深く繋がってから、無理を押して自分を受け入れてくれたサスケが落ち着くまで待つ。逸る気持ちと戦うこの時間は愛ある行為の醍醐味でもあり、ナルトはほんの僅かのこのひと時が嫌いではなかった。
ナルトにしがみつくサスケの手から小刻みな震えが無くなり、かわいそうな程こわばっていた肩から力が抜ける。その様子を確認してから動いてもいいかと問えば、いちいち聞くなとお決まりの台詞が返って来た。
確かに、こんなやりとりは野暮なのかもしれない。しかしナルトは、サスケの返答を聞く為に問い掛けを投げている訳では無いのだ。彼が何を言おうとそれに関係無く、口調や声音で相手の状態を判断する。素直な気持ちを滅多に口にしないサスケの性格はこんな時までそのままで、そうしなければ彼に必要以上の負担をかけてしまう恐れがあった。
「……ン……、…はァっ……、ア!」
緩やかに律動を始めれば、奥を突くタイミングでサスケが声を漏らす。声を抑えようと口元を掌で覆いながらも、ナルトの律動に合わせて腰を揺らめかせるサスケの身体は快感に素直だ。
少しくらいなら構わないだろうとサスケの手首を掴んで彼の口元から外させると、自分の首に腕を回すよう促す。するとサスケは、先程歯型をつけたナルトの右肩に唇を押し当てるようにして顔を埋めた。そんなにしてまで甘い声を聞かれたくないのかと多少微笑ましい気持ちになると同時に、小刻みに腰を揺するサスケの仕草に気づいて一気に下半身に熱が集まる。
「…サスケ、……すき」
愛しい身体を手加減無しに思うまま揺さぶってしまいたい欲を堪えつつ、突き上げる度に背をしならせて声を漏らすサスケの背を支えながら囁いた。
こんな時、もっと気の利いた言葉が言えたら、サスケをもっと幸福な気持ちにしてやる事が出来るのかもしれない。しかし、元々さほど語彙がある訳では無いナルトの頭の中は、目の前の事でいっぱいになってしまう。サスケが辛いのを我慢していないか、もっと快感を与える為にはどうしたらいいか、自分勝手な行為になってしまっていないか。そんな気遣いを忘れたくないと思っても、結局のところ、サスケを貪る事に夢中になってしまうのだ。
何度身体を重ねても慢心などしたくない、と言うよりは、慢心する余裕など微塵も無かった。サスケを見ていると、触れていると、好きで堪らなくて、大事にしたいのに力いっぱい抱きしめてしまいたくて、いつも必死になってしまう。好きだとか愛しているなどという睦言は、勝手な振る舞いに対する免罪符などでは無い事は、とうに解っているのに。
「ナルト、…っァ、……ナルト…っ!」
しがみつかれ名前を呼ばれて我に返る。快感を追うあまりいつの間にか突き上げる速度と力加減に容赦が無くなっていて、サスケの頬には涙が伝った跡があった。
「わ、悪ィ…!きつかった…?」
一旦律動を中断して声を掛けるも、お互いまともに話も出来ないくらい呼吸が乱れていて、途切れ途切れに問いをぶつける事しか出来無かった。てっきりひとりよがりの行為になってしまっていたかと思いきや、しかしサスケは、ナルトを見下ろす視線に鋭さを纏わせて睨みつけて来る。
「……いい、から…っ、……やめるな……!」
目尻に涙を滲ませ、今にも新たな雫を零しそうな漆黒の双眸に責められて言葉を失う。ふと視界に入ったサスケの下肢に目をやれば、血管が浮き限界まで張り詰めたそれは今にも達しそうにひくついていた。わざとなのか必死でそこまで気が回らないのか、再び乱暴な言葉で急かされると同時に歯型のついている右肩にサスケの爪が食い込んで痛みが走る。
今はシャワーは止まっているものの、元々濡れていたそこからぴりぴりとした痛みが広がる。おそらく血が滲んでいるだろうそこについた傷と感じる痛みがサスケの快感によって引き起こされたものだと思うと、ひどく嬉しくなって鼓動が速まった。
「なにニヤニヤしてやがる…、はやく、……んァっ……!」
怪訝な表情を浮かべるサスケの腰を掴んで一際強くその身体を貫けば、憎まれ口は途中から嬌声に変わる。そのまま断続的に浴室に響く甘い声を耳で楽しみながら激しく律動を繰り返し、さほど時間は要さずに二人揃って呆気無く昇りつめた。
明日の予定を考慮し、ナルトは約束通り一度でサスケを解放した。繋がりを解く際に悩ましげな声を漏らしたサスケと二ラウンド目になだれ込みたい気持ちが全く無かったかというと、決してそういう訳では無い。しかし、すっかり疲労しきった様子のサスケにしなだれかかられて下心は次第に小さくなった。代わりに湧き上がった愛しさのままに唇を合わせ、抱き締めて頬を擦り寄せる。
催促するかのようにサスケに髪を引っ張られたのをきっかけにシャワーコックに手を伸ばしたナルトは、少しぬるめの湯でサスケの汗を流してやった後、自分も頭から湯を浴びると手早く身体を流して浴室を後にした。
五月上旬の夜はまだ肌寒かったけれど、二人でベッドに入るのだから身に纏うのは下着だけでも十分だ。慌てて出掛ける準備をしたサスケは勿論、ナルトも元より着替えなど用意していない。その為、備え付けのバスタオルで粗方水分を拭うとお互い下着だけを身に着けて早々にベッドへ入った。
既に眠そうにしているサスケを抱き寄せてぬくもりを分かち合う。そうしていると、風呂に入るまでの恐怖心が嘘のように消え失せている事に気づいて可笑しくなった。
「……何笑ってやがる」
「ん?ああ、怖いのどっかとんでったなぁと思ってさ」
「あんなの、本気で怖かったのか」
くくく、と喉奥で笑うナルトの返事にサスケは僅かに瞠目する。どうやら、怖いというナルトの訴えは、浴室に乗り込んで来た下心のカモフラージュだと思っていたらしい。そうじゃないと慌てて否定すると、ほんの少しの沈黙の後笑みを浮かべたサスケは、どうだかなと呟いて唇の端を引き上げた。その表情変化の艶っぽさに、思わず心臓が跳ねる。同じ男なのに、何故彼はこんなにも表情のひとつひとつがきれいなのだろうと思わずにはいられなかった。しかし、綺麗だとか美しいだとか、そういった類の称賛の言葉は、行為の真っ最中でも無い限り、面と向かって口に出すのは少々照れくさい。
「大体サスケ、あんな話どこから仕入れたんだってばよ」
「ツイッター」
「ツイッター!?」
照れ隠しも兼ねて疑問をぶつければ、意外すぎる返答に思わず大声を上げてしまい、サスケの左手に口を塞がれる。つい一時間程前に隣室からうるさいと壁を叩かれたばかりなのだ、静かにしなければ今度はフロントへ電話で連絡される恐れがある。
「何でかい声出してんだよ……」
「だって!サスケ、ツイッター登録してるだけで全っ然呟かねえじゃねえの……。てっきり、もう見てねえのかと思った」
呆れ顔のサスケに謝罪して彼の手を外し、今度は小声で捲し立てた。高校を卒業する直前、興味無いからとツイッターのアカウントを持っていなかったサスケに、離れ離れになるのだからアカウントを作れば便利なのではないかと提案したのはクラスメイトである。
当時既に付き合っていたナルトはサスケの電話番号もメールアドレスも知っていたし、ツイッターのアカウントなど無くても支障は無かった。しかし、サスケが呟く日常を見てみたいという好奇心から、クラスメイトの後押しをして最終的にサスケにツイッターに登録させる事に成功したのだ。
元々ナルトもそれ程ツイッターを利用している訳では無かった事もあり、毎日チェックしているという訳ではなかったものの、たまに覗いてみてもサスケのアカウントに動きは無かった。実を言うとほんの少し期待はしていたのだが、元々サスケはネットを利用して独り言を呟く趣味も無ければ、ネットでまで人付き合いをするタイプでも無いのだから仕方無い。ツイッターを利用するよりは電話で直接声を聞ける方が嬉しかった事もあり、今ではナルトも通知のメールが来ない限り数日に一度ログインするかしないかという利用頻度になっていた。だからこそ、サスケが時折ログインしているなどとは夢にも思わなかったのだ。
「たまに、暇な時に少し覗くだけだ。……てめえがわざわざお気に入り登録なんかしやがるから、目に入るんだよ」
いかにも面倒そうに答えるサスケの目は困ったように伏せられて、声は次第に小さくなる。
確かに、彼がアカウントを作った時、すぐ見られるようにとお節介を焼いて勝手にお気に入りに登録したのはナルトだ。だが、だからと言って、サスケが律義に閲覧するとは期待していなかったのだ。それに、利用しないのならば削除してしまえば済む話。日常の中で僅かな待ち時間があっても、用も無いツイッターを開くよりネットでニュースを読む、サスケはそういう男だとナルトは思っていた。
何を見ているのかと純粋に疑問に感じた事をぶつければ、サスケは機嫌を損ねたように口を閉ざして黙り込む。その態度が不思議で更に問いを重ねると、気まぐれな恋人はふいと顔を逸らしてナルトに背を向けた。
「……別にいいだろ、どうでも。何も見ちゃいねえよ」
「ふーん……?」
自ら何かを発信する訳でも無く、特にサスケが必要としそうな情報も無いツールを、頻繁にでは無いにせよサスケが自発的に見る理由など考えても解りそうに無い。気にならないと言えば嘘になるが、元より細かい事を気にしない性格のナルトは、サスケでもそういうもので暇潰しをする事くらいあるのだろうと楽観的に結論づけた。
「俺が誰と喋ってるかとか、気になったりして見てたりして」
「何言ってんだ、てめえだってろくに呟いてねえくせに」
「……なんで知ってんだってばよ?」
「…………」
沈黙は肯定の証とは良く言うものの、まるで陳腐なミステリーで口を滑らせてしまった犯人のようなサスケのそれも当てはまるのだろうか。ナルトに背を向けたまま押し黙るサスケの肩を掴み、なあ、と声を掛ければ、ふてくされた声でうるせえと悪態が返って来た。
皆まで言わずとも、サスケの性格を考慮すればその対応が全てを物語っている。信じられない気分になりながら、掴んだ肩を軽く揺さぶった。いつからなのかと問い掛けて来ても、下手に口を開けばボロが出ると学んだのか、サスケは頑なに返事をしようとはしない。
もしかしたら、高校を卒業して遠距離になってからずっと。そんな自分に都合の良い想像をしてしまう程、サスケの背中から彼が照れている事が伝わって来た。
「……なあ、サスケ」
今度は質問はせず、サスケの肩を掴んだ右手に力をこめてやや強引に彼を振り返らせる。僅かに抵抗する素振りを見せた恋人を有無を言わせずに抱き込んで向かい合う体勢になり、次々と溢れて胸を熱くする愛しさを持て余したナルトはサスケの身体をきつく抱き締めた。
「好き。……すっげえ、好き」
気持ちをこめて出来るだけ丁寧に言葉を紡げば、胸を押し返そうとするサスケの動きが止まる。
返事など要らない。見返りなど求めていない。ただ気持ちを伝えたくて、想いを注ぎたくて、彼がそれを受け取ってくれさえすれば満足なのだと、そんな風に思えれば今よりもずっと格好がつくのかもしれない。けれど、ナルトはまだそんなに大人では無かったし、聖人君子という訳でも無いのだ。好きで好きで堪らないサスケには、同じようにとはいかなくともせめて多少は自分を好きであって欲しいし、彼の気持ちを尊重するつもりではあるものの、抱く欲を受け止めても欲しいという気持ちもある。しかしそれも、ひとえにサスケの事が好きだからに他ならないのだ。
「……そんな事、とっくに知ってる」
サスケの返事を聞いて思わず笑ってしまったのは、耳に届いた声に戸惑いと照れの両方が感じられたからだ。その返答がサスケなりの想いの伝え方である事など、ナルトの方こそ疾うに知っている。
「……ん。……明日もいっぱい遊ぼうな」
普段と変わらないサスケの態度を愛しく思いながら呟いた言葉は、まるで幼い子供同士が交わす約束のようだった。それを聞いたサスケは小さく笑ったのだろうか、満足すると同時に今日一日の疲労から瞼が重くなってきたナルトには判断がつかない。完全に意識が途切れる直前、サスケの掌に髪をくしゃりと優しく?き混ぜられる。同時に額に唇が触れたような気もするものの、段々と強くなる眠気に意識を攫われたせいで認識する事はかなわなかった。