祝福を君に



※未来捏造、サスケ帰還後。2014ナル誕。





 休日の朝、時間に追われる事無く微睡む事が許されるひと時に、ああなんて幸福なのだろうと思う。そんな一般的な感覚を今ではサスケも持ち合わせていて、隣に眠る存在とベッドの暖かさに包まれる感覚の心地よさにちいさく息を吐いた。普段ならとうに家を出ている時刻になってやっと意識が浮上しても、飛び起きたりしなくていい事実に感謝の念を抱きつつ再び目を閉じる。目を伏せる事で周りの映像を遮断しても、カーテンの隙間からベッドに降り注ぐ陽の光が瞼の裏を赤く灼いて覚醒を促してきた。
 今では当たり前になった日常も、数年前までは考えられなかったものだ。すっかりそんな生活に慣れきったサスケは、相当恋人に毒されているのだろうと自嘲気味に口端を歪ませる。それでも、満たされた幸福感と身体ので怠さで起き上がろうという気は起こらず、サスケは心地良い微睡みに意識をたゆたわせていた。



 それから遡る事数日。夕方からやけにそわそわしていたナルトが、夕食を終えいよいよ本格的に落ち着かない様子を見せ始めた。それまではそのうち言い出すだろうと何とか堪えていたサスケもついに耐え切れなくなり、いい加減にしろと怒鳴りつけてやろうかと口を開きかけたその時、思い詰めたような声で名を呼ばれて、サスケはやっと理由が判明するのかと思わず溜め息を吐いたのだった。
 普段なら絶対に開かないであろう忍術書を開いてみたり、いつもなら気にも留めないような場所の掃除をしていたりと、思い返せばナルトの様子は朝からおかしかった。否、もしかしたらもっと前からかもしれない。
 それを揶揄の材料にしてやろうと一旦は考えたサスケも、やけに神妙な面持ちで見つめてきたナルトの、今まで見た事が無いくらいの真剣な表情に気圧されて考えを改めざるを得なくなった。滅多に見る事が出来無いその思い詰めた顔は今でもはっきり思い出せる。この先も頭に焼きついたまま忘れる事は出来ないのではないかと思える程だった。

「…サ、…サスケ、…あのさ。…お、俺、明日誕生日なんだけど!」

「…知ってる」

「だ、だよなぁ。いくらなんでもコイビトの誕生日忘れたりなんてしねえもんなー?」

「そうだな」

 あまりに真剣な表情で下らない…は言い過ぎかもしれないが、ありふれた話題を口に出すものだから、一体何が言いたいのかという態度でサスケは努めて冷静に相槌を打った。ところどころ声が裏返り、視線はあちこちに散らばって不自然極まりなかったが、指摘するのも面倒でそのままにしておく。
 サスケの素っ気無い態度が原因なのか、暫し沈黙が訪れた。実のところ、誕生日の話題になった時点で、サスケはナルトが何を言いたいのかほぼ理解していたと言って良い。しかし、万が一に違うという可能性も無きにしも非ずで、もしそうだった時に恥をかくのはサスケに他ならないのだ。それに、ナルトが今から言おうとしているらしい事は、特別にサスケが望んでいる訳では無い。彼が言うのを躊躇えばそれが実現するのがその分遅れるだけであって、サスケは一向に困らないのだから、事の成り行きを見守るつもりで敢えて話の続きを促す事はしなかった。

「そ、それでさ、…俺」

「その日くらいちゃんと空けてある。気に入るかは別として、何か考えておく。…まあ、欲しいものがあるって言うならそっちの方が手っ取り早いが」

「えっ!?ウソ、マジで?…あ、…いや、なんつうかその、それはそれでめちゃくちゃウレシイんだけどさ、……」

 話を逸らすつもりで悪戯に口を挟めば、面白いくらいにいちいちそれに引っかかるナルトが可笑しいのと同時に腹立たしくなる。最初こそ彼が言わなければそれで構わないと思っていたサスケだったが、この期に及んで言い渋る素振りを見せるナルトにいい加減堪忍袋の緒が切れ、湧き上がる苛立ちに任せて向かい合わせに座っているテーブルを掌で叩き声を荒げた。同時に距離を詰めて胸倉を掴み力任せに相手の身体を引き寄せる。

「なんなんだよてめえは!俺が気付いてねえとでも思ってんのか?言いたい事があるならさっさと言いやがれ!」

「…っ…だ、だからァ!サスケが欲しいんだってばよ!!誕生日に!!」

 低音で怒鳴って解り易く凄めば、流石のナルトも観念したらしく素直に心の内を吐露したようだった。あまりに予想通りの答えに思わず溜め息が零れ、脱力してナルトのシャツから手を離す。…と同時に、笑いが込み上げて耐え切れずサスケは吹き出した。

「…なっ!?何笑ってんだよ!お、俺本気で言ってんだからな!?」

「…解ってる……」

 他人事では無いというのに何がそんなに可笑しかったのか、サスケは自分でも解らずに不思議な感覚に陥る。他人事では無いどころか、ナルトの様子から察するに多分組み敷かれるのは自分なのだ。それでも、やっと彼がこの話を切り出した事にサスケは何故か安堵すら感じていた。誕生日にかこつけなければ言い出せない恋人を情けないと感じるか可愛らしいと思うかは、今までの付き合いの深さによるのかもしれない。少なくともサスケは、優しさを通り越したナルトのそういうところが嫌いではなかった。



 少し前から、時折露骨に思える程に、恋人が自分を求める素振りを見せていた事にサスケはとっくに気が付いていた。
 戦争が終わり、最終的に木ノ葉に身を置く事にしたサスケは、まるでそうなるのが自然の流れであったかのように、一年が経つ頃にはナルトと俗に言う恋人になっていた。今でも時々信じられないと思う事もあるが、きっと何度あの時をやり直したとしてもこうなっているのではないかと思える程に、ナルトとの距離が縮まるのは必然だった。それくらい、ナルトは真剣で、熱い男で、更に言うと子供の頃からは考えられないくらいにあらゆる点で成長していたのだ。悔しいが、好きなんだ、俺と付き合って欲しい、と真っ直ぐに射るような眼差しでサスケを見つめながら告げたナルトの言葉に絆されないという選択肢は、あの時のサスケに存在しなかった。
 それなのに、一度恋人同士になってしまえば、ある種の安心感がそうさせるのか、サスケに思いを告げた時のようなナルトの勢いは滅多に見られなくなってしまった。つい最近までは自然にしていたキスも、その後を意識しての事なのだろう、ここ暫くは頻度が極端に減っている。というか、何を恐れているのか、サスケ以外に対してもスキンシップ過多と言っても良いくらい考え無しに触れてくる悪癖のあるナルトが、スキンシップ自体あまり仕掛けて来なくなった。
 別にそれ自体がサスケの不満という訳では無い。問題は、恋人同士になった以上抱くのが当然とも言える欲を、ナルトが無理に抑え込んでいる事だった。強引に行動に移さないどころか言い出しもしないナルトを少々悪い意味で意外に感じつつも、大事にされているようで悪い気がしなかったのは最初だけである。
 ナルトのどこか余所余所しい態度が半月を超える頃には、気が長いとは言えないサスケはあまりのまどろっこしさに苛立つようになっていた。そんなところにナルトの誕生日が近づいて来たという訳だ。
 まだナルトの真意を確かめる前であったにも関わらず、九月のカレンダーを捲って捨てる時には既にサスケはある決意を固めていた。自分とナルトの間柄だ、彼が欲しがりそうなものは大体解るし、食べ物の好みも把握している。誕生日プレゼントなんていくらでも用意のしようがあったし、ナルトの性格を考えれば、サスケが用意したものであれば彼は何でも喜んだだろう。しかし、この程度の知識と認識では、同期や友達と変わらない。今のナルトは里の英雄で、知り合いも多ければ慕っている人々も多い。サスケが思いつくような贈り物は、絶対にサスケ以外の誰かも思いつく。それが癪で、自分しか彼に与えられないようなものをやろうとぼんやりと考えていたのだ。誕生日プレゼントは自分ですなんて今時ベタ過ぎて笑えないけれど、相手がナルトなのだし、何より本人がそれを望んでいるのならそれもアリだろう。
 そんな訳で、どこか煮え切らない態度のナルトが遠慮しないように、サスケは敢えて何も用意せず十月十日に臨んだという訳である。ナルトたっての希望であった為、一楽で夕食を摂った他は何ひとつ普段と違えずに過ごした。太陽が沈み始める頃に、最近急に冷たくなった夜風で身体を冷やさないよう上着を羽織りナルトと肩を並べて屋台を目指す間も誕生日プレゼントの話題には触れていない。それでも今日くらいは奢ろうと思っていたのに、テウチにどうしてもと押し切られ、ナルトが奮発して頼んだ一楽の中で一番値の張る味噌ラーメンだけでなくサスケの注文した醤油ラーメンまで無料になってしまったくらいだった。
 帰宅してからもどこか余所余所しい雰囲気である事に耐えられず、お前の望み通り俺をやる、好きにすればいいとサスケは半ば怒鳴るように言い捨ててナルトの顔も見ず風呂場へ直行した。ナルトと二人で居る時に緊張するなどという慣れない感覚に戸惑うあまり、彼の誕生日であるにも関わらず半ば怒鳴りつけるような言い方になってしまった事に若干の後悔が湧き上がったが、サスケの方も余裕が無く今更謝罪するなどという選択肢は無い。
 そのままあまり時間をかけずに風呂を済ませ、髪や身体を拭くのもそこそこに無造作に寝間着を身につけると寝室へ駆け込みベッドへ身体を横たえた。ナルトとは顔を合わせなかったが、サスケが浴室を後にしてから風呂へ入ったらしく耳を澄ませばシャワーの音が耳に届く。どうやらサスケを待っている間ナルトは一度寝室へ入ったらしく、彼の愛用している古ぼけたカエルの財布がベッドの側に置かれていた。
 ナルトがどんな気持ちでこの部屋へ入り、今とは逆の立場でシャワーの音を聞いていたのか考えると自然と鼓動が速まっていく。
 世の中の恋人達というのは、皆こんな経験をしているのだろうか。恋人同士になった者全員が通る道だと思うと、何だか感慨深いのと同時に可笑しさがこみ上げてくる。ナルトに付き合って欲しい、と言われて頷いた時、サスケは正直そこまで考えていなかった。勿論、突き詰めて考えれば恋人としての付き合いの延長上にある行為なのだろうが、ナルトと自分がどうにもそういった行為からかけ離れていて想像がつかなかったのだ。
 そうして暫く取り留めの無い思考に身を浸していたサスケだったが、ふと我に返った時に未だシャワーの音がしている事に気づき身体を起こす。寝室に入った時刻を確認した訳では無かったが、たっぷり半時はこうして悶々と思い悩んでいた気がするし、現在の時刻から鑑みても実際それくらいは経っているだろう。半時の入浴の時間を長いと思うか短いと感じるかは人によるところであろうが、流石にこの状況で、しかも男で三十分は長過ぎやしないかと無意識のうちに眉を寄せた。
 自分で言い出した癖にまさか怖気づいたんじゃないだろうなとサスケが怒鳴り込むつもりで立ち上がりかけた時、タイミング良くやっとシャワーの音が止む。上げかけた腰を下ろして、浴室に怒鳴り込まずに済んだ事に安堵している自分に気づきサスケは深く溜め息を吐いた。
 全く、なんでこんな心配をしてやらねばならないというのだ。



 待たされた分なんと嫌味を言ってやろうか、悪態を吐いてやろうかと分刻みで増す緊張を誤魔化すように考えていたサスケだったが、やっと寝室に姿を現したナルトの切羽詰まった表情が目に入ると揶揄の言葉は出てこなかった。緊張している事がまる解りの掠れて上擦った声で名を呼ばれ、唇が触れたかと思った時には同時にベッドに押し倒されてしまうと、サスケの方もごちゃごちゃ考える余裕など吹き飛んでしまったのである。
 勢い良く行動に出たナルトに内心驚きつつも、取り敢えず彼の好きなようにさせてやろうと敢えてサスケからは何もアクションを起こさず見守るつもりで身体の力を抜く。出来る事なら気恥ずかしさから視界も閉ざしてしまいたかったのだが、目まで閉じてしまうのはあんまりだろうかと落ち着かなく視線をさまよわせた。そうする事で、サスケの肩の辺りに添えられているナルトの右手も、頬に宛がわれている左の指も掌も、かわいそうなくらいに震えているのが目に入る。サスケはその時、自分よりもナルトの方がずっと緊張している事を初めて知った。
 普段はあんなに考え無しで、押しが強い割りに鈍感で、こちらの気持ちなど言ってやらなければ察する事も出来ないくらい図太い癖に。そんなナルトが、好きな相手ひとり抱くのに、子供が出来る訳でも無いというのに、何をそんなに馬鹿みたいに緊張しているのか。
 自分に覆い被さる男がかわいそうなくらいあまりにも身を強張らせているので、サスケは逆に冷静になる事が出来た。羞恥といたたまれなさにやり場を失くしていた視線をさりげなく恋人に合わせる。余裕が無さそうに見えるのに、それでも気遣おうとしているらしい触れ方が、いかにも慣れていない事を示すぎこちない手つきが、まるで壊れ物にでも触れるようにサスケの肌を撫でる掌が、愛しかった。
 普段誰にでも振り撒いている馬鹿みたいな優しさも、滅多に見る事の出来無い緊張に強張った表情も、今はサスケ一人だけのものだ。そう思うと、どうしようも無く嬉しくて興奮が湧き上がる。ナルトが遠慮しているなら、そんなものなど必要無いという事を解らせてやらねばなるまい。サスケは手を伸ばすと無造作を通り越して乱暴に金髪を掻き混ぜた。驚いた表情で動きを止めるナルトが可愛らしくて、一瞬このままの勢いでひっくり返してやろうかと目論むも、そもそもこんな事態になっている理由がナルトの誕生日である事を思い出し止めておく事にする。後頭部を掴んで引き寄せると自分から唇を重ね、そのまま深く口内を繋いだ。何も考えられなくなるくらい酸欠にしてしまおうと、誘い出し絡めた舌を強く吸うとナルトの肩が大きく跳ねる。んぅ、と鼻にかかった苦しそうな声が漏れ、その様子にぞくりと興奮が背筋を駆け上がった。これではどちらが身体の関係を望んだのか解らないと内心可笑しさを堪え、恋人の口内を好きに味わいながら安心させるように彼の背を撫でてやる。全く世話が焼けるなと心の中だけで呟いて、いつ主導権を明け渡そうか頭を悩ませたまま恋人の身体をしがみつかんばかりに抱きしめた。



 元より瞼の裏にまで赤く入り込む陽光のせいで二度寝には程遠い状態だった事もあり、視線を感じたサスケは重い瞼をゆっくりと持ち上げる。露骨に心配そうな眼差しを送ってくる青い瞳と視線がかち合うのが気恥ずかしくて、照れくささに再び目を閉じた。少し寝過ぎたくらいで大袈裟な奴だと心の中だけで呟き、唇で緩く弧を描く。ナルトが心底安堵したように息を吐く気配から彼の思いの大きさが伝わって来るようで、くすぐったくも胸があたたかくなった。
 声を掛けられずとも、ナルトがサスケの覚醒を望んでいる事は明らかだった。照れくささから暫く狸寝入りを続けたい気持ちになるものの、目を閉じていてもひしひしと感じるプレッシャーが煩わしくて、結局サスケは再びすぐに目を開く。憎まれ口のひとつも言ってやろうとしたその瞬間、思わず息をのんだ。向けられる幸せそうな満面の笑みと、差し込んだ朝陽を受けて輝く金髪が眩しくて、息が止まりそうになる。思わず見とれてしまうのは、何もサスケに限った話では無いだろう。そう思うと同時に、こんな光景を見られるのは自分だけなのだという事実に優越感や幸福や照れが同時に湧いてきて複雑な心境に陥った。しかしこんな風に考えてしまうあたり、サスケ自身も相当ナルトに参ってしまっているに違いない。

「おはよ、サスケ」

 視線がかち合い、照れくささを隠そうとせずに落ち着かない様子で呟くナルトに朝の挨拶をされると同時に額に口づけられた。それだけでもどんな顔をしたら良いのか解らないくらいの恥ずかしさだったというのに、そのままそっと抱き締められまるで壊れ物でも扱うかのように髪や背中を撫でられてしまえば、照れを通り越していたたまれない。
 ナルトに優しくされるのは悪くない。ナルトが相手であれば、女扱いされているのでは無く大切にされているのだと思う事が出来た。それは惚れた欲目もあれば、ナルトが女の扱いに長けているタイプでは無いからでもある。
 サスケが何の文句も言わず抵抗の素振りも見せずにいる事が嬉しかったのか、ナルトはほんの僅かに腕の力を強めて頬擦りして来た。
 あたたかで、優しくて、こんなにも愛しさが湧き上がる。守られている感じがする訳では無いのに安心する。ナルトの腕の中には、幸せと呼べるもの全てが詰まっている気がして何故か目頭が熱くなった。それを誤魔化す為に自分からも相手の背に腕を回しで抱き返す。
 そのぬくもりに包まれて、自覚せざるを得ない。今この瞬間こそが、幸福と呼ぶべきものなのだろうと。それを、サスケはもうずっと、この先自分には縁の無いものなのだろうと思っていた。今となっては随分前の事になるが、何年か前に別れ際ナルトに言った、望むものなど過去にしか無いという趣旨の言葉は、あの時点では真実であり、サスケにとって全てだった。

「……どうかした?…ど、どっか痛え、…とか…?」

 心配そうにサスケの顔を覗き込んでくるナルトの一挙手一投足が苦しいくらいにサスケの胸を揺さぶる。こんな風に想われたら、こんなに大切にされたら、この先ずっと、ナルトを失う恐怖に怯えて生きていかなくてはならなくなる。それでも、今彼の手を離す気になど到底なれないのだ。それは、サスケ自身の幸福の為でもあり、ナルトの為でもあると言える。告白する時も、そして昨晩も、真摯に言葉を紡ぐナルトの声が忘れられない。

 サスケが一緒に居てくれるだけで、幸せなんだってばよ。

 およそ会話など出来る状態では無いくらいに二人とも必死で、ともすると聞き逃してしまいかねない状況の中、しっかりと耳に届いたナルトの言葉に胸が詰まってしまい、熱くなる目頭を抑える術をサスケは知らなかった。
 ナルトが一緒ならば何があっても幸福だと思えるくらいには、今のサスケはナルトに惚れ込んでいる。逆に言えば、ナルトとであればどんな苦しみにも耐えていける気がした。だからこそ思うのだ。幸福とは、幸せであれと願う一番の相手が、自分の傍に居る事を選んでくれる事であると。

「…何でもない…。…おはよ、う」

 普通に返事をするつもりが、掠れた声を喉から絞り出す結果となってしまった事に苦笑を禁じ得ない。我ながら酷い声だ。サスケの声にぎょっとした様子のナルトは再び心配そうに表情を曇らせてしまい、喋るのが億劫になったサスケは視線だけで問題無いと伝える。しかし、ナルトの様子を見るにどうやらそれだけでは足りない様子だった為サスケから軽く唇を触れさせてやれば、浮かない表情はみるみるうちになりを潜めてナルトの顔に幸せそうな笑みが戻った。それを見て安堵してしまう自分は、もう後戻り出来ないくらいに恋人の存在に入れ込んでしまっているらしい。



 ナルトが望むなら、物でも、言葉でも、身体でも、時間でも、何をくれてやったっていいと思えた。ただサスケは、一度大切なものを失い、それが元で全てを捨てて里を後にした人間だ。ナルトにくれてやれるものなど、自分自身の他は、そう沢山は持っていない。
 それで良いと彼が言うなら、ナルトになら、何でも差し出せると思えた。今更惜しいものなど何も無い。しかし、本当に彼に一番贈りたいものは祝福なのだ。

 ナルトは、今までに何度も、誕生日を暗い気持ちで、寂しい思いで、悲しみに耐えるように過ごしてきたのだろう。幼い時はその境遇に、事情を知ってからは歴史と事実に。ナルトの誕生日には、ただ彼が生まれたという一点を除いて、悲しみしか詰まっていなかった。
 しかしそれは木ノ葉の里の事情であり、ナルトには何の罪も無い。むしろナルトは、悲しみの詰まったその十月十日の唯一の希望であった筈なのだ。だからこそ、彼が一年毎に受け取る筈だった祝福の全てを取り戻して与えてやりたいと考えるくらいには、今までナルトが辛さに耐えて過ごしてきたのだろう誕生日が悔やまれる。しかしナルトは今更そんな事を望みはしないだろう。そして、自惚れでは無く、きっとサスケが傍に居る事が何よりも彼の望む事なのだ。
 叶うならば、これからもずっとナルトの誕生日を祝い続けていきたい。何年経っても、この先離れる事があっても。サスケだけが贈る事の出来る祝福を、ナルトに届けてやりたかった。
 彼から貰う、幸福の代わりに。



「……誕生日、おめでとう」